今買いの板橋 税理士
会社分割では、新設分割であれ吸収分割であれ、営業の承継が発生します。
営業の承継とは、商法245条の「営業の譲渡」に類似した法現象です。
「営業の譲渡」については、商法245条のほかに、商法総則に営業の譲渡と商号、営業の譲渡と競業避止について、いくつかの規定があります。
ここで考えなければならないのは、会社分割にもこれらの総則規定の適用があるのかという問題です。
今回の商法改正立案にかかわった役人や学者は、どういうわけか、この点をまったく論じていません。
私は原則的に、これらの規定(18,19,20,21,23,24、25,26,27条)の適用があると判断しています。
なぜなら、営業譲渡について、譲渡の相手方(譲受人)が競業禁止の規定によって、同市町村内で30年間以内の期間、譲渡人による競業から保護されなければならない理由は、会社分割による営業承継の場合もまったく同一だからです。
分割した翌日に、分割した甲会社が、乙会社に対して分割した営業と同一の営業をすることができるとすれば、乙会社が新株を発行したのと引き換えに営業を承継した意味がありません。
新設分割の場合より吸収分割の場合に、これが鮮明に浮かび上がります。
この解釈に反対する論者は、「営業譲渡の場合は譲渡の対価を収受しているが、会社分割の場合は対価がないから甲会社には競業避止の義務はない」と主張するかもしれませんが、乙会社は甲会社に自己の独立を取得するため自己の株式を交付しているのですから、乙会社が独立して生きていくこと、すなわち営業の独自性を保護すべきでしょう。
取引の相手方(第三者たる顧客)からみれば、営業主体が甲会社か乙会社かは、営業譲渡と会社分割の違いによって区別できるものではありません。
特に、商号を続用している場合は、外部からみれば同じです。
営業譲渡の場合は、譲受人が商号を続用するときは、譲受人は譲渡人の債務について弁済の責任を負う旨規定されています(商法26条)が、商号が続用されている場合は、この規定に定められているのと同様に、取引相手を保護する必要があります。
その理由は、商号を続用しているところにあり、その原因が営業譲渡だからか会社分割にあるからなのかには関係ありません。
営業譲渡の場合に譲受人が必ず商号を続用するとはかぎらないのとは反対に、会社分割の場合(特に新設分割の場合)、乙会社は甲会社の商号の続用を要求する場合が多いのです。
商号続用にかぎらず、取引の保護(動的安全の保護)に関するかぎり、これら商法総則規定の営業譲渡に関する事項は営業譲渡か会社分割かで相違をきたすことはないからです。
そのうえ、前記の場合であっても、営業譲渡の譲受人が譲渡人の債務については責任を負わない旨を登記した場合は、その債務について責任を負わないと規定されています(26条2項)。
これは登記の効力と考えられますから、ますます、営業譲渡と会社分割の場合とを区別する意味はないといえます。
いま検討したように、会社分割とともに商号が続用された場合に、どういう法律問題が発生するかについて、学者たちも論じていません。
これでは実務にたずさわる人間は不安ですから、私としては安全策をとるようおすすめします。
たとえば、商号を続用した場合は、その結果、「分割計画書」や「分割契約書」には甲会社から乙会社に移転する負債として記載されていない甲会社の債務について、第三者から乙会社に対して請求がなされた場合、乙会社は「分割計画書」や「分割契約書」の記載いかんにかかわらずその弁済に応ずるが、その後、乙会社は甲会社に対して不当利得として請求できること、そして、請求する場合の手続きなどについて、「分割計画書」や「分割契約書」に規定しておくことをおすすめします。
会社分割にともなって、甲会社の資産と負債が乙会社に移転する。
資産と負債の移転は、営業の承継の具体的中身として発生するものである。
資産なくして営業ができるはずがない以上、必ず資産の移転が生じる。
同様に、営業の承継にともない、負債の移転が生じる。
甲会社においてA営業を成立させていた資産がある一定の範囲にあり、また負債についても特定の範囲内であったとしても、乙会社にA営業が承継されるからといって、資産の範囲や負債の範囲がまったく同じになるとはかぎらない。
会社分割にともなって、甲会社の資産と負債が乙会社に移転します。
この資産と負債の移転は、営業の承継の具体的中身として発生するものです。
資産なくして営業ができるはずがない以上、必ず資産の移転が生じます。
同様に、負債がまったくない状態の営業もありえないでしょうから、営業の承継にともない、負債の移転が生じます。
このように、営業の承継にともなって、必ず資産と負債の移転が生じます。
しかし、営業の承継にともない、ある一定の資産と、ある一定の負債が移転するという特定の関係があるわけではなく、この両者問には特定の関係は存在しないことに最大限の注意を払う必要があります。
つまり、甲会社においてA営業を成立させていた資産がある一定の範囲にあり、また負債についても特定の範囲内であったとしても、乙会社にA営業が承継されるからといって、資産の範囲や負債の範囲がまったく同じになるとはかぎらないのです。
というより、甲会社における資産負債の各範囲と乙会社における資産負債の各範囲がどういう関係になるかについてはなんの定めもありません。
乙会社へ移転する資産と負債の範囲は承継される営業とも、移転きれる営業目的とも、必ずしも一致する必要はないのです。
この点は、会社分割において、もっともおもしろい点です。
なぜなら、甲会社のどの営業を乙会社に承継させるかを決定するのは企業経営者ですが、どの範囲の資産、どの範囲の負債を乙会社に移転するかについては、税理士の判断にかなりの範囲が任されることになるはずだからです。
腕のみせどころといえます。
ところで、会社分割にともない乙会社に移転するのは、簿記会計でいう資産と負債よりはるかに範囲が広いことに注意しなければなりません。
簿記会計で取り扱う対象は、常に金銭債権、金銭債務ですが、会社分割で扱う対象は、金銭債権や金銭債務のほか、非金銭債権、非金銭債務、民法上の物権、行政法上の許可など、きわめて広範囲にわたっています。
会社分割では、移転する債権債務を特定するため、会社分割時点以前の6カ月以内に作成された甲会社の「貸借対照表」とともに、乙会社に移転させる資産と負債について「開始貸借対照表」を作成しますが、ほかに移転する「権利義務明細書」を作成します。
このなかには、建物賃貸借契約、機械設備等のリース契約、金融機関との金銭消費貸借契約、取引先との長期納入契約、販売先との長期販売契約などが入ります。
資産の移転にともなうもっとも重要な法律問題は、物権債権の対抗要件です。
対抗要件と権利移転要件とはまったく別の問題ですが、よく混同きれますので、ここで少し説明します。
まず、債権について、権利移転のための法律上の要件は、権利者の移転の意思表示だけです。
債務者の同意は要件ではありません。
債権といえども権利の一種ですから、権利者がだれに相談することもなく自由に処分できるのは当たり前です。
動産、不動産についての物権について、権利移転のための法律上の要件は、同様に権利者の意思表示だけです。
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